メカトロニックなカメ

メカトロニクス技術者になりたいカメです

モータの仕様書を眺めてみる

背景

実際にモータを購入した使用する場合に仕様書を必ず眺めるでしょう。しかしモータメーカー各社によって仕様書の記載方法が違うため、見方がわからないことがまあまああるでしょう。特に制御を行う上で重要なのがトルク定数と逆起電力定数なのだが、それについての記載も不十分なことが多いため着目してみよう。 

モータの基礎方程式

まずはモータの基礎的な回路方程式と運動方程式を次式に示す。

\begin{align}v&=Ri+L\cfrac{di}{dt}+K_e\omega\\K_ti&=J\cfrac{d\omega}{dt}+C\omega \end{align}

\(v\)は電圧[V]、\(i\)は電流[A]、\(\omega\)はモータの回転角速度[rad/s]、\(R,L\)はモータの電気抵抗[\(\Omega\)]と自己インダクタンス[H]、\(J,C\)はモータの慣性モーメント[kgm\(^2\)]と粘性抵抗[Nms/rad]、\(K_e,K_t\)はモータの逆起電力定数[Vs/rad]とトルク定数[Nm/A]を表す。

注意してもらいたいのは、上記で示した単位でしかこの方程式が満たされないことである。また、この単位であればモータの逆起電力定数とトルク定数は一致するため、その点も確認していこう。

実際のモータ仕様書

maxon motor

実際のモータ仕様書を見ながらモータの基礎方程式と見比べてみましょう。とりあえずここではmaxon motorのDCモータを見てみます。

https://www.maxongroup.co.jp/medias/sys_master/root/8846534246430/20-JP-99.pdf

maxonのモータの仕様書にはトルク定数が示されていますが、単位が[mNm/A]となっていることに注意しましょう。しかし逆起電力定数はありません。それっぽいものとして回転数定数[rpm/V]というものがあります。この定数を逆起電力定数と同じ次元に置き換えるために、次式のような計算をします。

\begin{align}\cfrac{60}{2\pi\times回転数定数} \end{align}

 実際に回転数定数1330[rpm/V]に対し上式を適用してみますと、0.0072[Vs/rad]となります。トルク定数が7.19[mNm/A]つまり0.00719[Nm/A]であるため、上式で示した計算結果は逆起電力定数を表してることになります。

トルク定数

次に、他のデータからトルク定数を計算してみましょう。トルク定数を計算するのに用いるものとして、定格もしくは最大連続トルクと電流を用います。maxonのデータでは最大連続電流0.577[A]を与えたときの最大連続トルクが4.06[mNm]であるため、この比4.06*1e-3/0.577=0.00704[Nm/A]となり、トルク定数とほぼ一致します。また停動トルクと起動電流の関係からも同様に計算できます(10.5*1e-3/1.46=0.00719[Nm/A])。この若干のずれは計測条件の違いであると予想されます。

回転数定数

次に回転数定数1330[rpm/V]をほかのデータから計算してみましょう。無負荷回転時というのは逆起電力と印加電圧が平衡状態になることであるため、ここから回転数定数が計算できます。つまり無負荷回転数7890[rpm]/公称電圧6[V]=1315[rpm/V]と計算され、ほぼ一致します。しかし実際には摩擦などで逆起電力と印加電圧が完全に平衡状態にならず、少し電流が流れます。そのためモータに加えられる電圧は公称電圧から抵抗による電圧降下を引いた電圧であるため、無負荷電流14.7[mA]と端子間抵抗4.10[\(\Omega\)]を用いると、無負荷回転数7890[rpm]/(公称電圧6[V]-端子間抵抗4.10[\(\Omega\)]×無負荷電流14.7[mA]*1e-3)=1328[rpm/V]となり、回転数定数1330[rpm/V]とより近い値になります。

効率

今度は最大効率81[%]について見てみましょう。効率を計算するためには出力[W}を計算する必要があります。入力する電力[W]は公称電圧[V]×最大連続電流[A]を用いて6[V]×0.577[A]=3.462[W]と計算されます。次に出力パワーは最大連続トルク[Nm]×最大連続トルク時の回転数[rad/s]を用いて計算できます。しかしここでは単位が異なるため、そこに注意して計算すると、4.06*1e-3[Nm]×4830/60*2π[rad/s]=2.054[W]となります。よって最大トルク時の効率は2.054/3.462=59%となります。また、抵抗による熱損失も概算することができ、抵抗4.1[\(\Omega\)]×(0.577[A])\(^2\)=1.37[W]であり、このモータの定格回転時の損失のほとんどが抵抗による熱損失であることも確認できる。

最大効率となる回転数を求めるために、まずは最大効率となる電流を計算してみましょう。このモータの損失のほとんどが抵抗による熱損失であることから、入力電力に対し19%が抵抗による損失であることが推定されます。つまり4.1[\(\Omega\)]×(I[A])\(^2\)=0.19×6[V]×I[A]を満たす電流は0.278[A]となる。この時の発生トルクは、0.278[A]×7.19e-3[Nm/A]=0.0020[Nm]となる。効率が81%であるため、0.0020[Nm]×\(\omega\)/60*2π[rad/s]=0.81×6[V]×0.278[A]の等式から最大効率時の回転数は6451[rpm]となる。

粘性係数

機械的時定数も記載されていますので、ここにも着目してみます。運動方程式から機械的時定数\(t_m\)[s]は慣性モーメント\(J\)[kgm\(^2\)]と粘性係数\(C\)[Nms/rad]の比\(t_m=J/C\)から求められる。慣性モーメントと機械的時定数から粘性係数が概算できます。単位に注意して計算すると1.12*1e-3*1e-4[kgm\(^2\)]/8.87*1e-3[s]=1.263e-05[Nms/rad]のようになります。

澤村電気工業

次に澤村電気工業のDCモータを見てみます。

http://www.sawamura.co.jp/pdf/ss32g.pdf

澤村電気工業では逆起電力定数3.6[V/krpm]とトルク定数0.034[Nm/A]が設定されており、制御設計には親切な仕様書となっています。しかし逆起電力定数の単位が[V/krpm]となっているため、この単位[V/krpm]を基礎方程式の単位[Vs/rad]に合わせるために、60/(2π)×1000をかけると3.6[V/krpm]×60/(2π)/1000=0.0344[Vs/rad]となり、トルク定数[Nm/A]と一致していることが確認できました。

トルク定数

定格電流が2.3[A]で定格トルクが0.054[Nm]であるため、トルク定数を計算すると0.054[Nm]/2.3[A]=0.0235[Nm/A]となります。このように仕様書記載のトルク定数0.034[Nm/A]と乖離があります。

逆起電力定数

定格電圧12[V]で無負荷回転速度3300[rpm]であり、この時の電流が0.4[A]で電機子抵抗1.5[\(\Omega\)]であるため、逆起電力定数[V/krpm]は(12[V]-1.5[\(\Omega\)]×0.4[A])/3.3[krpm]=3.455[V/krpm]であるため、仕様書記載の逆起電力定数3.6[V/krpm]と若干の乖離があります。

無負荷回転速度以外にも定格回転速度を用いても同様に計算できます。計算すると(12[V]-1.5[\(\Omega\)]×2.3[A])/2.5[krpm]=3.42[V/krpm]である。

 

効率

効率の記載はないですが、定格時の効率を計算してみましょう。入力電力は12[V]×2.3[A]=27.6[W]であり、出力パワーは0.054[Nm]*2500/60*2*π[rad/s]=19.79[W]であるため、効率は19.79/27.6=71.7%である。この時の抵抗による熱損失も計算することができ、1.5[\(\Omega\)]×(2.3[A])\(^2\)=7.94[W]であり、このモータの定格回転時の損失のほとんどが抵抗による熱損失であることも確認できる。

粘性係数

慣性モーメントと機械的時定数から粘性係数が概算できます。単位に注意して計算すると0.11*1e-4[kgm\(^2\)]/12*1e-3[s]=9.17e-04[Nms/rad]のようになります。

 

マブチモータ

最後にマブチモータのDCモータを見てみます。

https://www.mabuchi-motor.co.jp/motorize/branch/motor/pdf/fa_130ra.pdf

この仕様書にはトルク定数も逆起電力定数も記載されていない。無負荷時(NO LOAD)や最大効率時(AT MAXIMUM EFFICIENCY)、停動時(STALL)のデータから計算してみましょう。

トルク定数

最大効率時電流が0.66[A]でトルクが0.59[mNm]であるため、トルク定数を計算すると0.59*1e-3[Nm]/0.66[A]=0.000894[Nm/A]となります。また停動時の電流が2.2[A]でトルクが2.55[mNm]であるため、トルク定数は2.55*1e-3[Nm]/2.2[A]=0.0012[Nm/A]となります。このように計測条件によって変動することもあるため注意しましょう。

逆起電力定数

定格電圧1.5[V]で無負荷回転速度9100[rpm]であり、この時の電流が0.2[A]であるが、抵抗値の記載はない。ひとまず抵抗値が0とした場合の、逆起電力定数[V/krpm]は1.5[V]/(9100/60*2π)[rad/s]=0.0016[Vs/rad]であるため、トルク定数と近しい値にはなる。一方最大効率時のデータもあるため、無負荷時と最大効率時で回路方程式が2つ得られ、未知定数が抵抗と逆起電力定数と2つであるため、連立方程式を解くことができる。つまり次式のように表せる。

\begin{align}1.5-R*0.2&=K_e(9100/60*2\pi)\\1.5-R*0.66&=K_e(6990/60*2\pi) \end{align}

上記連立方程式を解くと抵抗値は0.6868[\(\Omega\)]、逆起電力定数は0.0014[Vs/rad]と求まる。 

効率

最大効率時の出力パワーは0.43[W]と記載されているが、これはトルク0.59*1e-3[Nm]×回転数6990/60*2π[rad/s]から計算されたものである。この時の入力電力は1.5[V]×0.66[A]=0.99[W]であるため、この時の効率は43.4%である。抵抗による熱損失は0.6868[\(\Omega\)]×(0.66[A])\(^2\)=0.30[W]であることもわかる。

 

まとめ

このように、各社によってモータの仕様書の記載方法が違うため、ややこしく感じるが、冷静にそれぞれのデータからトルク定数や逆起電力定数を割り出すことができるため、購入する際はこの点に注意しよう。それにしても表記のバラバラっぷりにはいつも困らされます…