メカトロニックなカメ

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ナイキストの安定判別法の解釈

背景

制御工学における安定性を検証するために、ナイキストの安定判別法が良く用いられる。ナイキストの安定判別法のメリットとして、

  • モデル化が必要なく、周波数応答さえ取得できれば安定性の判別が可能
  • 連続系と離散系、無駄時間が複合するようなシステムでも判定可能
  • 安定余裕という指標を用いることで、安定性の強さの定量化が可能

といったように多くある。しかしこの安定判別の方法が、

といったような、パッと見わかりづらい方法である。この方法の最大の問題点は描画した線図を人の目が見て判断する必要があることである。つまり、もしプログラムで計測した周波数特性の安定判別を行う際は、このナイキスト安定判別法を数式等に直す必要があります。

不安定な極を持たない場合

まずは次のような一巡伝達関数を考えてみます。

\begin{align}G(s)=K\cfrac{s-1}{s^2+6s+5}\end{align}

\(K=1\)の時のナイキスト線図は下図のようになります。Octaveでは実線が正の周波数領域を表していることに注意しよう。

 

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K=1のナイキスト線図

上記のようにナイキスト線図が-1+0jを回らないため、この系の閉ループ系は安定である。

次に\(K=10\)の時のナイキスト線図は下図のようになります。

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K=10のナイキスト線図

0Hzの時は\(G(j0)=-2\)であるため、-1+0jを右に見ながら原点に収束しており、この系の閉ループ系は不安定である。

 

この問題をプログラムで判定させるために、一巡伝達関数に1+0jを加えた伝達関数を考える。

\begin{align}F(s)=1+G(s)=1+K\cfrac{s-1}{s^2+6s+5}\end{align}

つまりナイキスト線図を1だけ左にずらした線図、-1を原点に持つ線図に変更する。こうすることで原点から見た位相が時計回りに回るかどうかで判定できるようになるため、ボード線図を書いたときの位相から判定できるようになる。

\(K=1\)の時の\(F(s)\)のボード線図は下図のようになります。

 

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K=1のボード線図

このように位相が0degを出発して、0degに収束しており回転していないため安定であるといえる。

次に\(K=10\)の時の\(F(s)\)のボード線図は下図のようになります。

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K=10のボード線図

上図は位相が180degを出発して、0degに収束しており半回転している。周波数領域を負の領域まで考えた場合、位相が360degを出発して0degを収束していることになるため、反時計回りに1周しており、不安定である。

このように一巡伝達関数に1をプラスした位相線図から安定性を判別できる。以降では別のパターンで考える。

 

不安定な極を持つ場合

次のような一巡伝達関数を考えてみます。不安定極が1つあるため、ナイキスト線図は反時計回りに1周する必要があります。

\begin{align}G(s)=K\cfrac{s+1}{s^2+4s-5}\end{align}

\(K=1\)の時のナイキスト線図と\(F(s)\)のボード線図は下図のようになります。

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K=1のナイキスト線図

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K=1のボード線図

位相線図の位相差が0degであり、不安定極を持つのに回転していないためこの系の閉ループ系は不安定である。

 

\(K=10\)の時のナイキスト線図と\(F(s)\)のボード線図は下図のようになります。

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K=10のナイキスト線図

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K=10のボード線図

位相線図の位相差が180degであり、反時計回りとなるためには周波数が増えることで位相が増えていく方向である。そのため、閉ループ系は安定である。

 

不安定な極と原点に極を持つ場合

次のような一巡伝達関数を考えてみます。不安定極(原点極を含む)が2つあるため、ナイキスト線図は反時計回りに2周する必要があります。

\begin{align}G(s)=K\cfrac{s+1}{s(s^2+4s-5)}\end{align}

\(K=1\)の時のナイキスト線図と\(F(s)\)のボード線図は下図のようになります。

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K=1のナイキスト線図

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K=1のボード線図

虚軸上に極を持つ場合、その周波数におけるナイキスト線図の不連続性は右側に回転して繋がっていると考えることとなっている。

位相線図の位相差が90degしかなく、不安定極を持つのに回転していないためこの系の閉ループ系は不安定である。

 

\(K=10\)の時のナイキスト線図と\(F(s)\)のボード線図は下図のようになります。

 

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K=10のナイキスト線図

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K=10のボード線図

位相線図の位相差が270degではあるが、虚軸上の極を持つ場合はむりやり右側に回転して繋がっていると考えるため、周波数0Hzの時の位相は90degだけ引いて0degとなる。そうなると位相差が360degであるため、0Hz~∞Hzで1周回っており、-∞Hz~0Hzで1周回っていることになるため、全体として2周回っており安定である。

まとめ

このように計測した周波数特性に対して、1+0jを加えた特性の位相差を見ることで安定判別が可能となる。しかしこの場合でも不安定極の個数が事前にわかっている必要があるため、完全にモデルなしで安定判別ができるわけではないことに注意したい。