メカトロニックなカメ

メカトロニクス技術者になりたいカメです

モータブレーキの原理

前準備

1自由度回転振動系の運動方程式は次式のように表される。

\begin{align}J\cfrac{d^2\theta}{dt^2}+C\cfrac{d\theta}{dt}+K\theta=N \end{align}

 

モータブレーキとは

モータブレーキは永久磁石式モータが装着された運動系に対し、モータの端子間を短絡することでブレーキ力を発生させることである。この原理の数式は次式のようになる。

\begin{align}L\cfrac{di}{dt}+Ri=e_v \end{align}

\(e_v\)[V]は運動系の速度に起因される起電力で、速度起電力(motional electromotive force)や逆起電力(back electromotive force)と呼ばれる。速度起電力は基本的に運動の速度に比例しており、次式のように表記する。\(\phi_e\)は速度起電力定数や逆起電力定数と呼ばれる。

\begin{align}e_v = \phi_e \cfrac{d\theta}{dt}\end{align}

一方、モータに電流が流れるとローレンツ力\(f_e\)が発生し、運動系に力を及ぼす。このことを数式で表すと次式のようになる。 \(\phi_t\)はトルク定数と呼ばれる。

\begin{align}N_e = -\phi_t i\end{align}

なお、速度起電力定数\(\phi_e\)[V/(rad/s)]とトルク定数\(\phi_t\)[Nm/A]は原理的に同じ値になります。ただし単位が異なる場合があるため注意が必要である。具体的には速度起電力定数の単位の種類として[V/(deg/s)]や[V/Hz]、[Vrms/rpm]、トルク定数として[Nm/Arms]など様々なパターンがあるため、使用する際は注意しよう。

外力モーメント以外にローレンツ力が加わった場合の運動方程式は次式のようになる。

\begin{align}J\cfrac{d^2\theta}{dt^2}+C\cfrac{d\theta}{dt}+K\theta=N+N_e \end{align}

最後に、以上の4つの方程式をまとめると次式のようになる。

\begin{align}J\cfrac{d^2\theta}{dt^2}+C\cfrac{d\theta}{dt}+K\theta+\phi_ti=N\\L\cfrac{di}{dt}+Ri=\phi_e \cfrac{d\theta}{dt} \end{align}

上式を1つにまとめるために、状態方程式を用いると次式のようになる。

\begin{align}\left[\begin{array}{ccc}1&0&0\\0&J&0\\0&0&L\end{array}\right]\cfrac{d}{dt}\left(\begin{array}{c}\theta\\\cfrac{d\theta}{dt}\\i\end{array}\right)=\left[\begin{array}{ccc}0&1&0\\-K&-C&-\phi_t\\0&\phi_e&-R\end{array}\right]\left(\begin{array}{c}\theta\\\cfrac{d\theta}{dt}\\i\end{array}\right)+\left(\begin{array}{c}0\\N\\0\end{array}\right) \end{align}

別の方法としてラプラス変換を用いて、1つにまとめると次式のようになる。\(\tilde{\theta}\)や\(\tilde{N}\)はラプラス変換された変数である。

\begin{align}\left(Js^2+Cs+K+\cfrac{\phi_e\phi_ts}{Ls+R}\right)\tilde{\theta}=\tilde{N} \end{align}

性能の良いモータはインダクタンス\(L\)が抵抗\(R\)に比べて十分に小さい、つまり電気系時定数\(L/R\)が小さい。そのためラプラス変換された式は次式のように近似することができる。

\begin{align}\left(Js^2+\left(C+\cfrac{\phi_e\phi_t}{R}\right)s+K\right)\tilde{\theta}=\tilde{N} \end{align}

上式より、モータによる効果は減衰力を増やしていることを意味しており、抵抗値が小さいほど、速度起電力定数やトルク定数が大きいほどその効果は大きい。これがモータブレーキと呼ばれる所以である。

アナロジー視点

以前に(1自由度振動系のお話 その4 - メカトロニックなカメ)、電気系は機械系に変換(アナロジー)することができると述べた。ここでもアナロジーを行ってみよう。

上述したようにモータブレーキでは抵抗の逆数は減衰に相当する。以前の記事では逆数ではない点に注意されたい。

\begin{align}L\cfrac{di}{dt}+\cfrac{1}{c'}i=\phi_e \cfrac{d\theta}{dt} \end{align}

上式を整理すると次のようになる。

\begin{align}c'\cfrac{di}{dt}+\cfrac{1}{L}i=\cfrac{c'\phi_e}{L} \cfrac{d\theta}{dt} \end{align}

つまり電流の1階微分\(\cfrac{di}{dt}\)は角速度に相当し、電流は角度に相当する。このことからインダクタンスの逆数は剛性係数に相当することもわかる。

\begin{align}c'\cfrac{d\theta'}{dt}+k'\theta'=k'c'\phi_e \cfrac{d\theta}{dt} \end{align}

 上式から主系の角速度\( \cfrac{d\theta}{dt}\)が0の時は、アナロジーされた減衰力や剛性力は発生しない。つまり減衰とばねが直列に繋がれたモデルであると推察できる。実際に減衰とばねが直列に繋がれたモデルは力のつり合いの関係から次式のように表せる。

\begin{align}f=k\theta_0=c\cfrac{d(\theta-\theta_0)}{dt} \\c\cfrac{d\theta_0}{dt}+k\theta_0=c\cfrac{d\theta}{dt} \\\cfrac{d\theta_0}{dt}+\cfrac{k}{c}\theta_0=\cfrac{d\theta}{dt}\end{align}

再度アナロジーされた式に戻ると、以下のように変形される。 

\begin{align}c'\cfrac{d\theta'}{dt}+k'\theta'=k'c'\phi_e \cfrac{d\theta}{dt}\\\cfrac{1}{k'\phi_e}\cfrac{d\theta'}{dt}+\cfrac{1}{c'\phi_e}\theta'= \cfrac{d\theta}{dt} \end{align}

つまり、\(\theta_0=\cfrac{\theta'}{k'\phi_e}, \cfrac{k}{c}=\cfrac{k'}{c'}\)の関係があり、推察通り減衰とばねが直列に繋がれたモデルが主系に繋がれていることがわかった。