メカトロニックなカメ

メカトロニクス技術者になりたいカメです

1自由度振動系のお話 その4

1自由度振動系のお話 その1 - メカトロニックなカメ(無次元化について)

1自由度振動系のお話 その2 - メカトロニックなカメ(周波数応答・過渡応答について)

1自由度振動系のお話 その3 - メカトロニックなカメ状態方程式について)

の続き

復習

質量を\(m\)[kg]、ばね定数を\(k\)[N/m]、減衰係数を\(c\)[Ns/m]、位置を\(x(t)\)[m]、外力を\(f(t)\)[N]とすると、一自由度マスばねダンパ系の運動方程式は下記のようになります。

\begin{align} m\cfrac{d^2x}{dt^2}+c\cfrac{dx}{dt}+kx(t)=f(t) \end{align}

 上式を無次元化した運動方程式は次式のようになります。

\begin{align} \cfrac{d^2\tilde{x}}{d\tilde{t}^2}+2\zeta\cfrac{d\tilde{x}}{d\tilde{t}}+\tilde{x}(\tilde{t})=\tilde{f}(\tilde{t}) \end{align} 

回転運動に関する運動方程式(Equation of rotational motion)

ここまでは直線運動に関する運動方程式に着目してきました。次に回転運動、つまり回転したり、ねじれたりする運動に着目します。回転運動に関する一自由度振動系は次のように表されます。

\begin{align} J\cfrac{d^2\theta}{dt^2}+D\cfrac{d\theta}{dt}+K\theta(t)=N(t) \end{align}

慣性モーメントを\(J\)[kgm\(^2\)]、ねじり剛性係数を\(K\)[Nm/rad]、ねじり減衰係数を\(D\)[Nms/rad]、角度を\(\theta(t)\)[rad]、外力モーメントを\(N(t)\)[Nm]を表します。

さて、

1自由度振動系のお話 その1 - メカトロニックなカメと上記の運動方程式を同じ手順で無次元化を行います。

まず初めに角度\(\theta(t)\)を無次元化します。といっても角度はすでに無次元化されています。なぜなら角度の単位[rad]は、円の半径とその円弧の長さの比であるからである。ここが直線運動の運動方程式と大きく違う点である。

次に外力モーメントの無次元化を行います。ここで角度単位の[rad]は無次元単位であるため、ねじり剛性係数と外力モーメントは同じ次元である。そのため、無次元化された外力モーメント\(\tilde{N}(t)=N(t)/K\)[rad]を用いると、運動方程式は次式のようになる。

\begin{align} \cfrac{J}{K}\cfrac{d^2\theta}{dt^2}+\cfrac{D}{K}\cfrac{d\theta}{dt}+\theta(t)=\tilde{N}(t) \end{align}

最後に直線運動と同様に時間の無次元化を行います。固有角周波数\(\omega\)[rad/sec]は\(\sqrt{K/J}\)で表されるので、無次元化された時間\(\tilde{t}=\omega t\)を用いると回転運動に関する運動方程式は次式のようになります。

\begin{align}\cfrac{d^2\theta}{d\tilde{t}^2}+\cfrac{D}{\sqrt{JK}}\cfrac{d\theta}{d\tilde{t}}+\theta(\tilde{t})=\tilde{N}(\tilde{t}) \end{align}

減衰比を\(\zeta=\cfrac{D}{2\sqrt{JK}}\)とすると、下記のように直線運動と同じ運動方程式が得られます。

\begin{align}\cfrac{d^2\theta}{d\tilde{t}^2}+2\zeta\cfrac{d\theta}{d\tilde{t}}+\theta(\tilde{t})=\tilde{N}(\tilde{t}) \end{align}

さて、ここで気にしたい点として両辺の単位が[rad]となっていることである。このままでは外力モーメントの単位が[rad]であるため、直感的にわかりづらい。そこで正規化を行う。正規化とは規格化とも呼ばれ、運動方程式などの数式(数理モデル)においては、ある変数(定数)を基準となる量で割ることで、新しい変数(定数)が1を基準とした運動方程式に変形される。1を基準とするため数値を用いて計算する際も非常にわかりやすくなるというメリットがある。実は直線運動の運動方程式でも変数\(x\)を基準量\(x_{st}\)で割っているため、正規化を行っていたということである。

正規化にはまず基準角度を決める必要がある。通常は基準角度として、この場合では使用する角度範囲の最大値を基準角度とすることが多い。ここで基準の角度を\(\theta_0\)としたとき、正規化された回転運動の運動方程式は次のようになる。

\begin{align}\cfrac{d^2\tilde{\theta}}{d\tilde{t}^2}+2\zeta\cfrac{d\tilde{\theta}}{d\tilde{t}}+\tilde{\theta}(\tilde{t})=\tilde{N_0}(\tilde{t}) \end{align}

正規化角度が\(\tilde{\theta}(\tilde{t})=\theta(\tilde{t})/\theta_0\)、正規化外力モーメントが\(\tilde{N_0}(\tilde{t})=N(\tilde{t})/\theta_0\)と表される。これで直線運動の運動方程式と同じ方程式が得られた。

 

電気系の回路方程式(Circuit equation)

メカトロニクスを考える上で、機械系の運動方程式だけを考えるだけでは不十分である。ここでは電気系の回路方程式に着目する。今回はもっとも簡単なRLS直列回路、つまり抵抗とインダクタとコンデンサが直列につながれた回路に対し、電圧を印加するモデルを考えます。この時の回路方程式は次のようになります。

\begin{align} L\cfrac{di}{dt}+Ri(t)+\cfrac{1}{C}\int i dt=v(t) \end{align}

インダクタンスを\(L\)[H]、抵抗値を\(R\)[\(\Omega\)]、キャパシタンスを\(C\)[F]、電流を\(i(t)\)[A]、電圧を\(v(t)\)[V]を表します。この方程式は積分微分方程式であり、若干扱いが難しい。そこで、コンデンサに貯まる電荷\(q=\int i dt\)を用いることで、次式のように微分方程式が得られる。

\begin{align} L\cfrac{d^2 q}{dt^2}+R\cfrac{d q}{dt}+\cfrac{1}{C}q(t)=v(t) \end{align}

こうなると運動方程式と同じ形であることがわかる。基準電荷\(q_0\)、無次元化電荷\(\tilde{q}(t)=q(t)/q_0\)、無次元化電圧\(\tilde{v}(t)=Cv(t)/q_0\)、固有角周波数\(1/\sqrt{LC}\)、無次元化時間\(\tilde{t}=\omega t\)、減衰比\(\zeta = R\sqrt{\frac{C}{L}}\)を用いると、次のような回路方程式が得られる。

\begin{align} \cfrac{d^2 \tilde{q}}{d\tilde{t}^2}+2\zeta\cfrac{d \tilde{q}}{d\tilde{t}}+\tilde{q}(\tilde{t})=\tilde{v}(\tilde{t}) \end{align}

もちろん無次元化された回路方程式も運動方程式と同じ形状となる。

 

まとめ

このように、機械系の運動方程式と電気系の回路方程式は同じ方程式で表される。言い換えると機械系の運動を回路で表現することができ、逆に電気系の応答を機械で表現することができる。このことを日本語ではアナロジーと呼ばれ、英語ではMechanical–electrical analogiesと呼ばれている。

具体的には上記の数式を用いると、インダクタは質量、抵抗は減衰係数、コンデンサはばね定数の逆数、位置は電荷、速度は電流、外力は電圧に相当する。

この現象は非常に興味深く、電気を専門としている人は機械系を電気回路に変換してしまえば、慣れている領域で考えることができるため、扱いやすくなる。逆もまた然り。メカトロニクスを考えるうえで非常に重要な性質である。

しかしここで挙げた例では線形な要素のみであり、すべての要素に対して機械電気アナロジーを適用できるわけではない。例えばトランジスタのような半導体を機械で表すことは困難である。そのため、あくまでこの機械電気アナロジーは、電気や機械を専門としている者の橋渡しをする役目であり、メカトロニクス技術者にとっては万能な方法論ではないことを注意しておこう。