メカトロニックなカメ

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剛体モードを持つ振動系へのモード分解

前準備

\(\boldsymbol{M}\)を質量行列、\(\boldsymbol{C}\)を減衰行列、\(\boldsymbol{K}\)を剛性行列、\(\boldsymbol{x}\)を位置ベクトル、\(\boldsymbol{f}\)を外力ベクトルとしたとき多自由度振動系の運動方程式は次式のように表される。

\begin{align} \boldsymbol{M}\cfrac{d^2\boldsymbol{x}}{dt^2}+\boldsymbol{C}\cfrac{d\boldsymbol{x}}{dt}+\boldsymbol{K}\boldsymbol{x}=\boldsymbol{f} \end{align}

 次式のような一般化固有値問題の解\(\boldsymbol{T}\)を求める。

\begin{align} \boldsymbol{M}\boldsymbol{T}\boldsymbol{\Omega}^2=\boldsymbol{K}\boldsymbol{T}\end{align}

 変換行列\(\boldsymbol{T}\)と変位ベクトルを\(\boldsymbol{x}=\boldsymbol{T}\boldsymbol{\phi}\)のように変換すると、以下のようにモード分解された運動方程式が得られる。

\begin{align} \boldsymbol{T}^\textrm{T}\boldsymbol{M}\boldsymbol{T}\cfrac{d^2\boldsymbol{\phi}}{dt^2}+\boldsymbol{T}^\textrm{T}\boldsymbol{C}\boldsymbol{T}\cfrac{d\boldsymbol{\phi}}{dt}+\boldsymbol{T}^\textrm{T}\boldsymbol{K}\boldsymbol{T}\boldsymbol{\phi}=\boldsymbol{T}^\textrm{T}\boldsymbol{f}\\\boldsymbol{\bar{M}}\cfrac{d^2\boldsymbol{\phi}}{dt^2}+\boldsymbol{\bar{C}}\cfrac{d\boldsymbol{\phi}}{dt}+\boldsymbol{\bar{K}}\boldsymbol{\phi}=\boldsymbol{T}^\textrm{T}\boldsymbol{f}\\\cfrac{d^2\boldsymbol{\phi}}{dt^2}+\boldsymbol{\bar{M}}^{-1}\boldsymbol{\bar{C}}\cfrac{d\boldsymbol{\phi}}{dt}+\boldsymbol{\Omega}^2\boldsymbol{\phi}=\boldsymbol{\bar{M}}^{-1}\boldsymbol{T}^\textrm{T}\boldsymbol{f} \end{align}

上記のモード分解では\(\boldsymbol{\bar{M}}^{-1}\boldsymbol{\bar{C}}\)が対角行列になるとは限らない。しかし実用上は減衰が小さいため、\(\boldsymbol{\bar{M}}^{-1}\boldsymbol{\bar{C}}\)の非対角項を無視しても問題ないことが多い。

剛体モード(Rigid body mode)とは

上記で扱ってきたモードというのは、厳密には振動モードと呼ばれるものであり、モードには他にも剛体モードというものがある。剛体モードとは、数学的にはモード分解やモード形式によって得られた固有値(もしくは固有角周波数)が0となるモードを差し、実用上では復元力(ばね力などの元の位置に戻す力)が働かないモードであり、力を加えると動き続ける状態のことを意味している。

例えば、人が歩行する際の移動は剛体モードであり、人がジャンプしたときは地面に引き寄せられるので振動モードである。メカトロニクスの分野で剛体モードが良く用いられるのが、電磁モータの回転である。モータの回転はトルクを与え続けると常に回転し続け、回転角度は無限に大きくなっていく。このように回転する物体を制御する際には剛体モードの考えは不可欠である。

また、電磁モータにトルクを与える際に、一定のトルクを与えることができればモータは滑らかな回転をするが、実際には一定のトルクを加えることは困難である。そのためトルクに脈動が生じ、モータの回転も振動的になる。この振動が故障の問題となることが多い。

自動車を例にするとさらに顕著である。ガソリン等の内燃機関の多くはロータ(回転する物体)が2回転する間に一度だけガソリンを燃焼させてトルクを生み出している。そのためトルク脈動が顕著となるため、自動車特有の揺れを発生させている。

以上のことを理由に、今回は剛体モードが含まれた多自由度振動系を考える。

剛体モードを含んだ運動方程式

剛体モードを含んだ2自由度振動系の運動方程式は次のようになる。

\begin{align} \left[\begin{array}{cc}m_1&0\\0&m_2\end{array}\right]\cfrac{d^2}{dt^2}\left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\end{array}\right)&+ \left[\begin{array}{cc}c_1+c_{12}&-c_{12}\\-c_{12}&c_{12}+c_2\end{array}\right]\cfrac{d}{dt}\left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\end{array}\right)\\&+\left[\begin{array}{cc}k_{12}&-k_{12}\\-k_{12}&k_{12}\end{array}\right]\left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\end{array}\right)=\left(\begin{array}{c}f\\0\end{array}\right) \end{align}

上式をモード分解してみよう。モード分解の際は減衰行列を無視して、下記の一般化固有値問題を考える。

\begin{align} \left[\begin{array}{cc}m_1&0\\0&m_2\end{array}\right]\boldsymbol{T}\boldsymbol{\Omega}^2=\left[\begin{array}{cc}k_{12}&-k_{12}\\-k_{12}&k_{12}\end{array}\right]\boldsymbol{T}\end{align}

固有値行列と固有ベクトル行列は次のようになる。

\begin{align} \boldsymbol{\Omega}^2&=\left[\begin{array}{cc}0&0\\0&k_{12}\left(\cfrac{1}{m_1}+\cfrac{1}{m_2}\right)\end{array}\right]\\\boldsymbol{T}&=\left[\begin{array}{cc}1&1\\1&-\cfrac{m_1}{m_2}\end{array}\right]\end{align}

よってモード分解を行うと次式のようになる。

\begin{align} \cfrac{d^2\phi_1}{dt^2}+\bar{c}_1\cfrac{d\phi_1}{dt}=\bar{f}_1\\\cfrac{d^2\phi_2}{dt^2}+2\zeta_2\omega_2\cfrac{d\phi_2}{dt}+\omega_2^2=\bar{f}_2 \end{align}

一つのモードでは固有角周波数は持たず、外乱\(\bar{f}_1\)が一定値ならば、モード変位\(\phi_1\)は常に増加(または減少)し続け、モード速度\(\frac{d\phi_1}{dt}\)はモード減衰\(\bar{c}_1\)に応じた値に収束する。

また、モード変位\(\phi_2\)は振動モードであり、ステップ上の外乱を印加したときに振動しながら、ある値に収束する。

まとめ

振動モードのみの場合でも、剛体モードを含む場合でもモード分解を行うことで、モードの分離ができる。複雑な振動系ほどモード分解が有効である。今回はモード分解を行ったが、減衰が大きい場合はモード形式を用いても同様にモード分解が行える。