メカトロニックなカメ

メカトロニクス技術者になりたいカメです

1自由度振動系のお話 その1

振動工学や制御工学を学ぶ際に必ず出てくる制御対象として、マスばねダンパで構成された1自由度振動系。今回はここを深堀してみます。

質量を\(m\)[kg]、ばね定数を\(k\)[N/m]、減衰係数を\(c\)[Ns/m]、位置を\(x(t)\)[m]、外力を\(f(t)\)[N]とすると、下記のような運動方程式が得られます。

\begin{align} m\cfrac{d^2x}{dt^2}+c\frac{dx}{dt}+kx(t)=f(t) \end{align}

今回はこの式を使っていろいろやっていきます。

無次元化(Nondimensionalization)

 無次元化とは、例えば位置には[m]の次元を持っていますが、この次元をなくす(無次元にする)ことです。無次元化のメリットは

  • 式に含まれるパラメータの数が減って見通しが良くなる
  • 数値計算の際に桁落ちが生じづらい
  • 例えば船や飛行機の試験では、大きすぎて実機を使うわけにはいかないので、無次元化した方程式が同じになるような条件にすることで、実機を模擬した試験が可能になる
  • 具体的な質量や位置など有次元の情報は、企業秘密も含まれているため、それを隠して学会や特許等で公開するために使う

といったところです。非常に実用的なのですが、学生はあまり意識することが少ないかと思います。覚えておいて損はないでしょう。デメリットとして考えられるのは、直感にそぐわない式になるため慣れが必要なことでしょうか。

 

無次元化の方法にはいくつかありますが、今回は私の方法を紹介します。まず、変数、ここでは位置\(x(t)\)[m]と外力\(f(t)\)[N]、そして時間\(t\)[sec]を無次元化します。初めに同じ次元を持つ新しい定数を用意します。この同じ次元を持つ新しい定数の用意の仕方が、一番重要で慣れと経験が必要になります。

マスばねダンパ系の場合、位置に関する新しい定数(基準量)として\(x_{st}\)[m]を用意します。そして無次元化された位置\(\tilde{x}(t)=\frac{x(t)}{x_{st}}\)を導入すると、運動方程式は下記のように変わります。

\begin{align} m\cfrac{d^2\tilde{x}}{dt^2}+c\frac{d\tilde{x}}{dt}+k\tilde{x}(t)=\cfrac{f(t)}{x_{st}} \end{align}

次に外力の無次元化を行います。先ほど新しい定数\(x_{st}\)を用意したので、これを用いて外力と同じ次元の定数を作りたいと思います。そこで運動方程式を眺めていると、\(kx_{st}\)が同じ次元になることが見えてきます。その情報を使って、無次元化された外力\(\tilde{f}(t)=\frac{f(t)}{kx_{st}}\)を導入すると、運動方程式は下記のように変わります。

\begin{align} \cfrac{m}{k}\cfrac{d^2\tilde{x}}{dt^2}+\cfrac{c}{k}\frac{d\tilde{x}}{dt}+\tilde{x}(t)=\tilde{f}(t) \end{align}

これで両辺が無次元化されました。最後に時間\(t\)を無次元化します。ここも外力と同様に、時間と同じ次元を持つ定数を用意します。そこで振動工学の知見を持つ人には馴染みの固有角周波数を用います。固有角周波数\(\omega\)[rad/sec]は\(\sqrt{\cfrac{k}{m}}\)で表されるので、無次元化された時間\(\tilde{t}=\omega t\)を導入すると、運動方程式は下記のように変わります。

\begin{align} \cfrac{d^2\tilde{x}}{d\tilde{t}^2}+\cfrac{c}{\sqrt{mk}}\frac{d\tilde{x}}{d\tilde{t}}+\tilde{x}(\tilde{t})=\tilde{f}(\tilde{t}) \end{align}

最後にこれも振動工学で良く用いられる減衰比\(\zeta=\cfrac{c}{2\sqrt{mk}}\)という無次元量を用いることで、運動方程式は下記のように無次元化されます。

\begin{align} \cfrac{d^2\tilde{x}}{d\tilde{t}^2}+2\zeta\frac{d\tilde{x}}{d\tilde{t}}+\tilde{x}(\tilde{t})=\tilde{f}(\tilde{t}) \end{align}

\(m\)、\(k\)、\(c\)と3つあった定数が\(\zeta\)に集約されており、非常に見通しの良い形になりました。また、物体の振動は減衰比\(\zeta\)のみによって特徴づけられるということがわかりました。

このような無次元化は他の様々なところでも用いられており、例えば流体力学の代表的なナビエストークス方程式を無次元化すると、レイノルズ数などが現れます。特に模型実験などを行う流体力学の分野では無次元化は頻繁に使うので、必須知識といえるでしょう。

解析解(Analytical solution)

次に、この式の解析解(厳密解ともいう)を示します。解法は省略しますが、この運動方程式は2階線形非同次(非斉次)微分方程式ですので、同次微分方程式の一般解(余関数)は\(\zeta\neq1\)の時に

\begin{align} \tilde{x}(\tilde{t})=C_1e^{-(\zeta+\sqrt{\zeta^2-1})\tilde{t}}+C_2e^{-(\zeta-\sqrt{\zeta^2-1})\tilde{t}} \end{align}

となります。とりあえず今回は重根となる状況は無視しておきます。

特殊解も含めた一般解は定数変化法を用いることで下記のように得られます。

 \begin{align} \tilde{x}(\tilde{t})=\cfrac{1}{2\sqrt{\zeta^2-1}}\left(\int e^{(\zeta+\sqrt{\zeta^2-1})\tilde{t}}\tilde{f}(\tilde{t})d\tilde{t}e^{-(\zeta+\sqrt{\zeta^2-1})\tilde{t}}-\int e^{(\zeta-\sqrt{\zeta^2-1})\tilde{t}}\tilde{f}(\tilde{t})d\tilde{t}e^{-(\zeta-\sqrt{\zeta^2-1})\tilde{t}}\right) \end{align}

なお、\(\tilde{f}(\tilde{t})=\tilde{f}_0\)のように定数の場合、一般解は下記のようになる。\(C_1, C_2\)は初期位置と初期速度に関する定数である。

 \begin{align}\tilde{x}(\tilde{t})=\tilde{f}_0+C_1e^{-(\zeta+\sqrt{\zeta^2-1})\tilde{t}}+C_2e^{-(\zeta-\sqrt{\zeta^2-1})\tilde{t}}\end{align}

無次元化された初期位置を\(\tilde{x}_0=x_0/x_{st}\)、初期速度を\(\tilde{v}_0=v_0/(\omega x_{st})\)とすると、\(C_1, C_2\)は次のように表すことができます。

 \begin{align}C_1&=-\cfrac{(\zeta-\sqrt{\zeta^2-1})(\tilde{x}_0-\tilde{f}_0)+\tilde{v}_0}{2\sqrt{\zeta^2-1}}\\C_2&=\cfrac{(\zeta+\sqrt{\zeta^2-1})(\tilde{x}_0-\tilde{f}_0)+\tilde{v}_0}{2\sqrt{\zeta^2-1}}\end{align}

 また、\(\tilde{f}(\tilde{t})=\tilde{f}_0\sin(\alpha \tilde{t})\)のような正弦波の場合、一般解は下記のようになる。

 \begin{align}\tilde{x}(\tilde{t})&=\cfrac{(1-\alpha^2)\tilde{f}_0}{(1-\alpha^2)^2+4\zeta^2\alpha^2}\sin(\alpha\tilde{t})-\cfrac{2\zeta\alpha\tilde{f}_0}{(1-\alpha^2)^2+4\zeta^2\alpha^2}\cos(\alpha\tilde{t})+C_1e^{-(\zeta+\sqrt{\zeta^2-1})\tilde{t}}+C_2e^{-(\zeta-\sqrt{\zeta^2-1})\tilde{t}}\\&=\cfrac{\tilde{f}_0}{\sqrt{(1-\alpha^2)^2+4\zeta^2\alpha^2}}\sin\left(\alpha\tilde{t}+\cos^{-1}\left(\cfrac{1-\alpha^2}{\sqrt{(1-\alpha^2)^2+4\zeta^2\alpha^2}}\right)\right)+C_1e^{-(\zeta+\sqrt{\zeta^2-1})\tilde{t}}+C_2e^{-(\zeta-\sqrt{\zeta^2-1})\tilde{t}}\end{align}

なお、\(\alpha\)は固有角周波数で無次元化された周波数比である。

 

このように、無次元化された運動方程式の解析解が得られました。無次元化したことによって、パラメータの数が減っているため計算ミスが少なくなりそうな気がしませんか?もし有次元の解析解を得たい場合は、無次元化された解析解に元の変数を代入してあげればよいです。

\begin{align}x(t)=\cfrac{1}{k}\cfrac{f_0}{\sqrt{(1-\alpha^2)^2+4\zeta^2\alpha^2}}\sin\left(\alpha\omega t+\cos^{-1}\left(\cfrac{1-\alpha^2}{\sqrt{(1-\alpha^2)^2+4\zeta^2\alpha^2}}\right)\right)+C_1x_0e^{-(\zeta+\sqrt{\zeta^2-1})\omega t}+C_2x_0e^{-(\zeta-\sqrt{\zeta^2-1})\omega t}\end{align}

長くなったので、今回はここまで